大阪市北区ビル火災の報告書について解説!【今後の防火・避難対策】

大阪市北区ビル火災(北新地ビル放火殺人事件)について有識者検討会の報告書が公表されましたね。
これ相当、重要なこと書いてあるから…流し読みしちゃった忙しい皆さまの為に管理人が嚙み砕いて解説します!

以下の通りTwitter上でも総務省消防庁より大阪市北区ビル火災の検討会報告書が公表されました。

総務省消防庁

@FDMA_JAPAN

【報道発表】消防庁と国土交通省では「大阪市北区ビル火災を踏まえた今後の防火・避難対策等に関する検討会」において、階段が一つしか設けられていないビルにおいて今後取り組むべき防火・避難対策等について検討しました。今般、報告書がとりまとめられたので公表します。

参考総務省消防庁(@FDMA_JAPAN)

何で今回の検討会、総務省消防庁だけじゃなくて国土交通省も絡んでんの!?
直通階段1本つまり二方向避難が確保できていないことについては建築基準法が絡んでくるからですね。

建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その階から避難階又は地上に通ずる二以上の直通階段を設けなければならない。

参考建築基準法施行令 第121条〔二以上の直通階段を設ける場合〕

法令の棲み分け例

  • 総務省消防庁‥消防法、電気通信事業法
  • 国土交通省‥建築基準法、建設業法
  • 経済産業省‥電気事業法、高圧ガス保安法

特に消防設備業者は来たる変化および機会に対応する為、検討会報告書の主旨を理解しておきましょう。

構造上リスクを常に抱える建築物

今回の火災についてはWikipediaで “放火殺人事件” と言い換えられている通り一般的な火災ではなく特殊な火災にあたると考えられています。

しかし改めて “直通階段が一つの建築物” については火災の被害が大きくなるリスクを抱えており、その事実については対策をすべきだという結論になっています。

実際、唯一の逃げ道となる階段前で炎が上がって通れなくなると詰みますからね。
今回たまたま大量のガソリンよるテロでしたが、そうじゃなくても危ない建物構造だって話。

この既存建物に潜在する火災リスクに対して事前に打っておくべき具体的な予防策も挙げられており、ここに建築基準法や消防法の取扱いや運用に関して変化(≒民間企業における商機)があります。

直通階段が一つの建築物に係る具体的な対策

ちなみに消防法上でも屋内階段一つ、かつ地階もしくは3階以上に特定用途(不特定多数の人が出入りする用途)がある「特定一階段等防火対象物」に該当すれば、もともと消防用設備等の設置基準が厳しくなっています。

既存不適格建物の増改築工事時の負担軽減

増改築で建築基準法が遡及される際、費用が掛かり過ぎて放置されていた部分のルールを見直そうって話。
ここについては前記事 “北新地ビル火災に関する消防設備士の見解” でも言及していた通り避難器具の設置に補助金を出すのが理想的だと思ってます。

ただし避難器具の設置だけでは建築基準法における二方向避難の確保は達成されない為、以下の「補完的な代替措置」で挙げられている “避難区画” を設けるまでやる必要があります。

退避区画への避難器具設置

直通階段による避難が困難であった場合、消防隊による救助を待つための “退避区画” を設けることで火災から身を守ろうとする対策です。

<不燃性能・遮煙性能を有する戸>

  • 常時閉鎖式または煙感知器連動の随時閉鎖式とし、開放後に自動で閉鎖するもの。

区画の後付けは可能?

以前、屋内消火栓の設置義務を省略したいがために後付けで区画形成した特殊な事例 “防火扉の設置による区画形成で屋内消火栓未設をクリア” の施工実績ありましたが、同様の工事を伴う案件が増えるかもしれません。

また<不燃性能・遮煙性能を有する戸>に加えて、以下の<開口部>の設置が補完的な代替措置における “退避区画” の確保をするために挙げられています。

<開口部>

  • 外部からの救助が可能な大きさのもの
  • 避難器具を設置
もし “退避区画” を作るのであれば避難器具の設置も挙げられている為、消防設備士も関わってきますね。
あと、いざというときに避難器具がソフト面的にも使える設備である必要がありますよ…これについては後述します。

直通階段の防火・防煙区画化

<防火設備>

  • 遮炎・遮煙性能を有するもの
謎に防火戸や防火扉が撤去されている建物とかあるので、この辺りも立入検査でしっかり確認して頂きたいところ。
ちなみに階段は竪穴区画(建物を縦に貫通する部分)なので、もともと区画して煙の拡散を防がなければなりませんよ。

既存不適格(≒昔はOKだったけど今はNG)のパターンではなく、ずっと建築基準法で規定されている竪穴区画などが適切に形成されているか等についてを再確認していくことになります。

重点的な立入検査および消防法令違反是正措置

ちなみに大阪市北区ビルについては以下の通り消防用設備点検の未実施が指導されていたと報告されています。

大阪市北区ビルの消防法令違反

消防法第4条に基づく直近の立入検査日‥平成31年3月19日

参考大阪市北区ビル火災に係る消防庁長官の火災原因調査結果報告書

消防用設備点検‥そろそろ当たり前に実施および報告する世の中にしましょうよ。
今回、直通階段1本の建物については違反処理も厳しくなるでしょうから消防用設備点検の報告率も改善されるのではないかと。

この消防用設備点検の報告率については前ブログ “シンポジウム「消防設備業の未来」文字起こし【IFCAA2022横浜】” でも触れていますので、ご参照下さいませ。

防火対象物点検報告の徹底

今回、具体的に “防火対象物点検報告の徹底を図る” ことが謳われており、こちらが防災屋にとっては見逃せない特筆すべき項目でしょう。

防火対象物点検とは

消防法第8条の2の2に基づき、一定の防火対象物について専門知識を有する防火対象物点検資格者によって点検を実施および報告する制度。

消防用設備点検がハード面の点検であるのに対し、防火対象物点検は防火管理者を選任しているかや消防訓練などを実施しているか等のソフト面の点検である。

新宿歌舞伎町ビル火災を契機にできた点検報告制度で、消防署だけでは建物の防火管理体制の全てに目を通すことは数的に困難であったことから民間に一部業務が流れたもの。

参考防火対象物・防災管理点検

防火対象物点検の実施義務がある建物には防火管理者も選任されているので、このタイミングでも業者と防火管理者が連携して防火管理していこうねって話になる。
やはり当サイト “ボジョ(防火管理者の補助)” に通ずる流れに行きつくと思いましたし、これを機に防火管理者制度だけでなく防火対象物点検報告制度にも魂を吹き込んでいかなければならないと改めて思いましたよ。

全体で50%程度を推移している消防用設備点検の報告率と同様に、防火対象物点検の実施および報告率も以下の通り悲惨な状況です。

防火対象物点検の報告率

今回スポットライトが当たった(メスが入った)防火対象物点検の実施および報告率も全体で50%に留まっています。

参考防火対象物点検報告制度・消防設備点検報告制度の概要_総務省消防庁

加えて、大阪市北区ビルと同様の屋内階段1本(≒火災リスクが高い)建物における防火対象物点検の実施および報告率は全体と比べて低い傾向にあります。

参考第 3 答申 – 東京消防庁

さらに大阪市北区ビルと同様の特定複合用途(16)項イに分類おり、かつ防火対象物点検の実施および報告義務のある建物は断トツで多いです。

要は大阪市北区ビルと同様に危険度の高い構造の建物が、たくさんあるのに防火対象物点検報告は全然されていない現状があるってこと。
今回、立入検査および違反処理の徹底がなされることは、これまでにない改善の機会ですから…しっかり業者側も対応していかないと。

防火対象物点検報告率が上がることにより、防火管理者が担っている業務の一つである消防訓練の実施も適切にされやすくなるでしょう。

避難訓練の指導

特に屋内階段1本の建物については火災発生時の動き方も他の建物と異なることから、その避難訓練マニュアルも別で設けるべきだと提言されています。

ちょ

さらに建物によっても逃げ方って異なるでしょうから、ガイドラインに則りつつ半オーダーメイドで避難訓練されるべき。
手前味噌で恐縮(してません)ですが…弊社が防火管理者向けに提供している「BOSAIメンバー(※無料)」になっていただければ避難訓練マニュアル動画も建物ごとに作って提供させて頂いておりますよ。

青木防災㈱にサービス依頼しない手は無いでしょう。

参考BOSAIメンバー

適切に避難訓練を含む消防訓練がなされ、ハード面とソフト面の両輪で防火管理体制ができれば避難器具を含む消防用設備等が使える設備となるでしょう。

定期報告(12条点検)の対象範囲拡大

消防法で規定されている消防用設備点検や防火対象物点検に加えて、建築基準法第12条では建物に関する点検および報告の規定があります。

定期報告(12条点検)には以下の3つがあります。

  • 特定建築物定期調査
  • 建築設備定期検査
  • 防火設備定期検査
一定規模以上の建物じゃないと定期報告(12条点検)の対象にはならないイメージだけど、これから直通階段1本の建物だったら実施義務生じるようになるのかな?
まだ詳細は公表されてないけど、そうっぽいですね…ちなみに手前味噌で恐縮(してません)ですが青木防災㈱では建築基準法に基づく定期検査(12条点検)も有資格者によって行うことができますよ。

直通階段1本で火災発生時に被害が拡大しやすい建物の防火管理も青木防災㈱に全て、お任せ下さいませ。

まとめ

  • 総務省消防庁より「大阪市北区ビル火災を踏まえた今後の防火・避難対策等に関する検討会」において、階段が一つしか設けられていないビルにおいて今後取り組むべき防火・避難対策等について公表された。
  • 改めて “直通階段が一つの建築物” については火災の被害が大きくなるリスクを抱えており、消防隊による救助を待つための “退避区画” を設けることや重点的な立入検査および消防法令違反是正措置をすべきだという結論になっていた。
  • 今回、具体的に “防火対象物点検報告の徹底を図る” ことが謳われており、こちらが防災屋にとっては見逃せない特筆すべき項目であった。